著者 村尾 浩
所属 神戸学院大学総合リハビリテーション学部医療リハビリテーション学科理学療法学専攻

要約

レクリェーションとしてのバドミントンは手軽なスポーツとして知られているが、競技としてのバドミントンは運動強度が高く過酷なスポーツであることは意外に知られていない。この研究の目的はバドミントン競技をしている社会人に質問紙による調査を実施し、バドミントン競技に起因する傷害実態を明らかにすることである。
大阪社会人バドミントン連盟に所属するバドミントン選手1682名にアンケート調査を実施し、回答が得られた328名(男性210名、女性118名、平均年齢37.5±10.5歳)(アンケート回収率 19.5%)を対象とした。
調査項目 は身長、体重、競技開始年齢、練習機会/週、練習時間/週、練習時の運動強度、プレースタイル、外傷(けが)の有無、外傷部位、障害(使い過ぎによる痛み)の有無、障害部位とした。
外傷有りは164 名、外傷無しは164 名で、障害有りは298 名、障害無しは30名であった。外傷部位は、1. 足関節2. 膝関節3. アキレス腱 4. 下腿 l5. 足 6. 腰7. 手指 8.眼球の順に多く、障害(疼痛)部位は1.肘関節2.肩関節3.膝関節4.腰 5.足  6.手関節7.足関節 8.下腿  9.アキレス腱 10.大腿11. 股関節の順に多かった。
外傷名は、1. 捻挫  2.肉離れ  3.靭帯損傷 4. アキレス腱断裂5.ぎっくり腰、眼球打撲の順に多く、障害名は1.テニス肘  2.腰痛  3. 腱鞘炎  4. 椎間板ヘルニア5 腰椎分離症の順に多かった。
外傷は競技開始からの期間が長い選手とBMI が高い選手に多かった。障害はBMI の高い選手に多かった。

Key word
スポーツ傷害, バドミントン, アンケート調査, 社会人選手

Ⅰ はじめに
レクリェーションとしてのバドミントンは手軽なスポーツとして知られているが、競技としてのバドミントンは運動強度が高く過酷なスポーツであることは意外に知られていない。その過酷さゆえ、バドミントンに起因するスポーツ傷害の発生は容易に予想されるが、傷害の実態および関連要因に関する研究は少ない。
この研究の目的はバドミントン競技をしている社会人に質問紙による調査を実施し、バドミントン競技に起因する傷害の実態および傷害との関連要因を明らかにすることである。
Ⅱ 対象と方法
A 対象
大阪社会人バドミントン連盟に所属するバドミントン選手1682名にアンケート調査を実施し、回答が得られた328名(男性210名、女性118名、平均年齢37.5±10.5歳)(アンケート回収率 19.5%)を対象とした。
B 方法
調査項目 は身長、体重、競技開始年齢、練習機会/週、練習時間/週、練習時の運動強度(Borg scale)、プレースタイル(ハードヒッター型、オールラウンド型、レシーバー型)、外傷(けが)経験の有無、外傷経験部位、障害(使い過ぎによる痛み)経験の有無、障害経験部位とした。
検討項目は身長の男女差、体重の男女差、body mass index(BMI)の男女差、競技開始年齢の男女差、練習機会の男女差、練習時間の男女差、傷害(外傷・障害)経験の有無と性別、プレースタイル、競技開始からの期間、BMI、運動強度、練習時間/週との関連について統計学的に解析した。
Ⅲ 結果
身長は男170.5±6.1 cm、女158.0 ±5.5 cm で男が高かった。体重は男65.0±7.8 kg、女52.2 ± 5.4 kg で男が重かった。BMI は男 22.5±2.6 kg/ m2、女 19.1±6.1 kg/ m2 で男が大きい値を示した。競技開始年齢は男22.1 ±10.1歳、女21.2±10.7 歳で女が早く競技を始めていた。練習機会は男2.1 ±1.1回/週、女2.1±1.2 回/週で男女差はなかった。練習時間は、男4.9±4.0 時間、女4.9±3.2 時間で男女差はなかった(表1)。外傷経験有りは164 名、外傷経験無しは164 名で(図1a)、障害経験有りは298 名、障害経験無しは30名であった(図1b)。外傷経験有りは男102 名、女61 名、外傷経験無しは男107 名、女57 名で男女差はなかった(図2a)。障害(疼痛)経験有りは男194 名、女103 名、障害経験無しは男15名、女15 名で男女差は無かった(図2b)。外傷経験部位は、1. 足関節、2. 膝関節、3. アキレス腱、4. 下腿、5. 足、6. 腰、7. 手指、8. 眼球の順に多く、障害(疼痛)経験部位は1. 肘関節、2. 肩関節、3. 膝関節、4. 腰、5. 足、6. 手関節、7. 足関節、8. 下腿、9. アキレス腱、10. 大腿、11. 股関節の順に多かった(表2)。
外傷名は、1. 捻挫、2. 肉ばなれ、3. 靭帯損傷、4. アキレス腱断裂、5. ぎっくり腰、眼球打撲の順に多く、障害名は1.テニス肘、2. 腰痛、3. 腱鞘炎、4. 腰椎椎間板ヘルニア、5. 腰椎分離症の順に多かった(表3)。
傷害の有無とプレースタイルに関連はなかった(図3)。
外傷経験は競技開始からの期間が長い選手とBMI が高い選手に多かった。外傷経験の有無とBorg scale、練習時間/週に関連はなかった。障害経験はBMI の高い選手に多かった。障害経験の有無と競技開始からの期間、Borg scale、練習時間/週に関連はなかった(表4)。

Ⅳ 考察
A 外傷経験部位
外傷は捻挫やアキレス腱断裂、肉離れなど下肢に多いという結果が得られた。これは先行研究とほぼ同じ傾向を示した[1-10]。バドミントンのフットワークはテニス、卓球などのラケットスポーツと違い、身体の前のシャトルコックは利き手側の足を大きく踏み込んでから打ち(図4a)、身体の後方の球は下肢を入れ替えて非利き手側の足で着地しながら打つという特徴がある(図4b)[9]。このバドミントンに必要とされる特徴的な動作が足関節捻挫など下肢の外傷が多い原因の1つと考える。また、バドミントンのシャトルコックは男子のトップレベルでは秒速86.3メートル(時速310.7km)にもなり、スポーツ競技の中で最も初速の速いスポーツである。その滞空時間はスマッシュが0.2秒、クリアーで3秒と10倍のひらきがみられ[11]、他のラケットスポーツに比べ球の速度変化が著しい。それゆえ、選手は瞬時の判断と動作がプレー中に求められ、また予想しない球の対処をフットワークで補うため、下肢への負担が大きい。瞬時に大きな力を発揮するには、単に骨格筋を収縮させるのではなく、骨格筋を伸張させた後に収縮させる伸張短縮サイクルでの筋活動が必要である[12]。大きな力を発揮する際に骨格筋に過負荷がかかり下肢筋の肉離れやアキレス腱断裂が生じていると推察する。

B 障害経験部位
障害経験部位は上肢である肘関節や肩関節に多かった。障害病名の回答数は外傷病名の回答数に比較して少なかった。龍頭らは、バドミントンのスマッシュやクリアーを打つ際に爆発的な力が必要で、上肢に溜めこんだ力をムチ動作により末梢へと伝えていると述べている[13]。スマッシュやクリア―を打つ機会の多いバドミントンでは上肢の一部分である肩関節や肘関節に多く障害が生じたと考える。山田らは腱板炎[9]を鈴木らは内側上顆炎[14]を障害病名として挙げているが、今回の研究は直接の身体診察でない質問紙での調査であるので障害病名まで詳細に明らかにすることには限界があると考える。

C 傷害経験の有無との関連要因
競技開始からの期間が長い程外傷経験有りが多かったが、競技開始からの期間と障害経験の有無には関連はなかった。競技開始からの期間が長い程、外傷や障害を経験する確率は高くなると考えられるが、今回の調査結果では障害を経験した選手は全体の90.9%という高い比率であったというバイアスの影響と捉えている。BMI が大きい値で有る程、外傷・障害の経験数が多かった。体脂肪率の調査は行えていないが、BMI と体脂肪率には正の相関が存在するので、体脂肪率が高い選手はバドミントンの激しい動きにより身体への負担が過大になり外傷や障害が生じる確率が高くなっていると考えられる。

D外傷・障害の予防について
バドミントンによる外傷は足関節捻挫やアキレス腱断裂、肉ばなれが多かった。外傷が生じると競技を外傷の重症度に応じた中止期間が必要になる。外傷後のスポーツ復帰には医学的治療期間より長い時間がかかるので、可能な限り予防したいところである。外傷予防には練習前の十分なウォーミングアップやストレッチ、練習中や試合中のテーピングや装具装着が考えられるが、今回の研究では明らかにできていない。観察研究でなく介入研究で明らかにすべきと考えている。外傷に比較して障害は上肢の使い過ぎによるものが多かった。障害が重症化し競技中止を余儀なくされる前に発見し、治療することが重要であると考える。しかしながら、今回の調査では外傷名に比較して障害名の回答数は少なかった。バドミントンを行っている選手が痛みを自覚した際は、適切な診断の基に練習強度を低くし、練習機会や練習時間を短くすることで障害を軽症状態に留め重症化することを防げると考える。それにはバドミントンに起因する障害の実態およびその自己診断方法を選手および指導者に啓発し続けることが必要なのかも知れない。
Ⅴ 文献
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[2]    荻内 隆,宗田 大,柳下和慶ら.一流バドミントン選手の外傷・障害特異性.日本整形外科スポーツ医学会雑誌 1998;18:343-348.
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学1996;46:407-410.
[4] 一宮和夫.バドミントン.臨床スポーツ医学 1995;12:398-401.
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ツ医学 1984;1:528-532.
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障害について.日本整形外科スポーツ医学会雑誌 1994;14:37-42.
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[11] 井箟敬.バドミントンプレーヤーのスポーツビジョンに関する研究.北陸学院
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[13] 龍頭信二,石井勝,江口泰.バドミントン選手の体幹部前後屈運動における生体エネルギー論的研究. 日本体育学会大会号 1995;46:310.
[14] 鈴木秀雄.バドミントンによる運動器障害とその予防対策について.臨床スポーツ医学 1989;:3:421-423.

Title
Sports  injuries  in  badminton players on club team

Key word
Sports injury, badminton, questionnaire , club team

Abstract
Badminton for fun is a casual recreational activity; however, it is not well-known that competitive badminton is a high-energy activity which requires high exercise intensities. This study aimed to clarify the current status of badminton injuries by conducting a questionnaire survey involving amateur badminton players.
A questionnaire survey was conducted involving 1,682 badminton players belonging to the Osaka Amateur Badminton Federation, and 328 players (male: 210, female: 118, mean age: 37.5±10.5) (response rate: 19.5%) who responded to questionnaires were enrolled as the subjects.
The questionnaire consisted of the following: height, weight, years of experience, number of times of sports practice/week, number of hours of sports practice/week, exercise intensity during practice, playing style, presence or absence of injury, site of injury, presence or absence of impairment (overuse syndrome, pain caused by overuse), and site of impairment.
Of the 328 subjects, 164 had an injury, and impairment was observed in 298 subjects. Body sites most commonly injured were the ankle joint, followed by knee joint, Achilles tendon, lower leg, foot, lower back, finger, and eye. The most common sites of impairment (pain) were the elbow joint, followed by shoulder joint, knee joint, lower back, foot, wrist joint, ankle joint, lower leg, Achilles tendon, thigh, and hip joint. The most common injury diagnoses were sprain, followed by muscle sprain, ligament injury, Achilles tendon rupture, acute lower back pain, and eye contusion, while the most common impairments were tennis elbow, lower back pain, tenosynovitis, lumbar disk herniation, and lumbar spondylolysis.
Injury was more likely to be observed among the subjects who have many years of badminton experience and a high BMI, whereas impairment was observed among the subjects with a high BMI.

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