ロンドンオリンピック男子シングルス
9月末の週末は日本体育協会のバドミントンコーチ義務研修会が行われました。今回はロンドンオリンピックの決勝からグループで課題を抽出し、練習方法をコートで実習してみるという課題でした。コートで実習するということなので技術面、体力面、戦術面での検討となるのですが、私自身は本当はメンタル面の課題抽出を行っていました。
研修では、男子シングルスにおけるショートサービスからのセンター位置でのハーフショットのやり取りからロビングを上げ、アタックしてからまたハーフのやり取りをする。逆にロビングを上げてアタックされたものをレシーブする、それを15本1ラリーとして25分行うというものでした。実際は時間の関係で10分程度でしたが、モデルになった学生さんにとってはかなり負荷の高いものであることがわかりました。もちろんトッププレーヤーをターゲットとしているのでそうなることはわかっていましたが。 さて、今回のロンドンオリンピック男子シングルスでは、リーチョンウェイとリンダンの対戦になりました。 1ゲーム目、試合が動いたのは、8−8の時のリーチョンウェイのクロスネットがネットインしたのがきっかけで、リンダンの感情がマイナス方向に動いたときでした。その差は最後まで詰まらずリーチョンウェイが勝ちきりました。 2ゲーム目、7−6(周辺)リーチョンウェイリードのところで、リンダンのプレーは柔らかくなってきてはいたのですが、クロスのドロップを大幅サイドアウト。しかし、ここでリーチョンウェイに油断の感情が動いたように思えました。8−8まで一気に追いついたリンダンの勢いが止まらず、リンダンの勝利。 ファイナルゲーム、ずっと僅差で試合が進みましたが、19−18リーチョンウェイリードのところで、リーチョンウェイに「勝ちたい」気持ちが出過ぎたのかバックラインのジャッジミスで失点。19−19になったところでリンダンのスマッシュアンドラッシュが炸裂。リーチョンウェイに後悔の念が残ったのかもしれません。リンダンの優勝が決まりました。 今回のシングルスでは、リンダンはマイナス感情に引きずられ、リーチョンウェイはプラス感情に引きずられているものと考えられます。 リンダンは出来て当たり前のプレーに関してはさほど反応せず、ネットインやジャッジミスなどの自分ではどうすることも出来ない出来事に敏感に反応します。 リーチョンウェイは、そういう不慮の出来事に対しては感情を表に出さず淡々とこなしていくのですが、「勝ちたい欲」に 感情を動かしてしまうことが今回のオリンピックという大舞台では起こってしまったのでしょう。 あくまでも私見ですが、そのように感じた試合でした。 |
どう生きるのか
学校の授業では英単語を覚える方法として「声に出して3回書いてみる」という方法をとっていますが、最終的には声を出さない、3回書けば休む(寝る)、など「とにかくこなせばいいんでしょ?」的な要領だけを考えた姿勢が多く見られるようになりました。悲しいことですが良い感情を交えて記憶することとはほど遠い行為となってしまっています。
スポーツにおいても、より効率のいい練習、すぐに勝てる戦略というような方法がもてはやされています。しかし、教えられたことで効率よく練習し、すぐに勝てたとしても感動は少なく本当に身に付くことは少ないのではないでしょうか。 お金持ちの家庭に生まれた人は経済的に何不自由なく生活することが出来ますが、やはり心の豊かさはいつまでも不十分だと言われています。目に見える物だけ、聞こえる物だけを信じる様子が多く見られ、自己中心的なフィルターを通して見たり聞いたりしていることに気づけない人も多いです。そういう私自身もまだまだ自己中心的なフィルターの存在に気づけないときが多いのですが。 つまり、人から教えられたものは身に付く土台が出来ていないと身に付かないということです。身に付く土台とは普段からの問題意識、あれこれと工夫して突破しようという試行錯誤の回数、上手く行っているかわからないけどとにかく続ける素直さ、その行為の中の違和感を感じる感性、でしょうか。上手くなりたいのなら「上手くなろうと思うこと」がまず大切なのです。故松下幸之助氏も似たようなことを仰ってます。 (故)鈴木俊隆老師は、肩の痛みを訴える人に対して、 「その肩の痛みは...........一生続く」 と諭し、 桜井章一氏は、 「不調こそ、我が実力」 と諭します。 人生は悩み、迷いの中を泳ぐようなものなのでしょう。「悩みなんかないのでは」と周りから言われることがあります。全くそんなことはなくちょっとしたことでもいろいろと気にかかります。ただ、悩んでいるようには見せかけないように装い、心を中心に持ってくることだけは意識しています。 さて、スポーツをする上で大切なことが「致知」10月号ミニバスケットボール指導者の土本さんの記事に載っていました。そこから少し引用します。 「私の考えるミニバスの目的は、ただ試合に勝つ、全国制覇を目指すといったことではありません。それはひとつの目標でしかないのです。目的は辛いことから逃げず、自ら掲げた目標に向かって最後まで諦めず、信念を貫き通す強さを身につけることです。」 全くその通りだと思います。勝ってもそれはすぐに過ぎ去るものであるし、それはその瞬間の勝利でしかありません。 「勝利」が勝って利を得るという意味ならばそれは半分しかあっておらず、勝って不幸になる人生もあります。しかし、過程を重視出来る人は不幸になりにくい心の強さ、運を身につけられると思います。 |
問題はすべて自分自身の中にある
雀鬼会会長桜井章一氏の指導論は、
「最初は頑張れ!力一杯やりなさい。」 「次に力を抜いて力を出しなさい。それを体で覚えなさい。」 「体で覚えたら、自分の思い通りになるようにしなさい。」 鉋削りでいう「荒しこ」「中しこ」「上しこ」ですね。 普段の練習でも「ハイクリア」をしっかりと打たせています。力んで打ちながら力が入らなくなってくる、そこから力を抜いて飛ばすことを体で覚える。怪我や熱中症には注意していますが、しんどい、疲れた、もう無理という欲望を突き抜けた状態に入ることで身体にフォームをインプットさせることが出来ればと思っています。 そこになければならないのがやはり「素直」さ。文句を言ってばかりでは自分自身が伸びることは出来ません。すぐに自分自身を批判する第2の自分の声をどうかいくぐるか。 麻雀の「哲也」から哲也がダンチに言った言葉。 「卓を投げ出すのは勝負を降りたのと同じだ。どんな負け方をしようが、どんなことが起ころうが、勝負を降りてはいけない。まだお前が玄人ならばな。」 バドミントンでも試合に負けると投げ出したくなる気持ちはわかります。しかし、その試合で負けようがまだまだ勝負は終わっていないということです。この言葉には感動しました。 勝負を降りてしまうのは自分自身なんですよね。しかも自分勝手に。 |
勝負に強くなる
勝負している時に「迷い」があると力が発揮できないことは皆さんわかっておられると思います。例えば2階と台所を行き来している時に、台所で冷蔵庫を開けた時に何をしにきたのか忘れてしまったという場合などがそうですが、途中で違ったことを考えてしまうとそういうことが起こります。
つまり、試合のラリー中などにああしろ、こうしろという声掛けは余計な思考が働き「迷い」を生む最悪のコーチングになります。ラリー中は思い切って直感に任せるくらいでないと力は発揮されにくいということです。 また、点数差がついて勝っているときに油断することで逆転を許すことが多々起こります。これは「もうすぐ終わり」と考えた瞬間に、脳の血流量が下がり空間認知中枢、前頭葉が活発に働かなくなるためです。ですので、21点を終わりと考えるのではなく、試合が終わりお世話になった人や対戦相手に「ありがとうございました」と感謝の気持ちを表すときが試合の終わりとイメージすることでこの現象を防ぐとこが出来るそうです。 力を発揮する人、強い人の特徴は、「自分で決めてやる」「チームに貢献する」「勝ち方に拘る」「最後の最後まで手を抜かない」など。 弱い人の特徴は「否定後をすぐ使う」「言われないとしない」「勝ち負けを気にしている」「様子を見ながらコツコツやる」など。 こんなところを良い習慣によって悪いクセを直していきたいものですね。 - 脳科学からの教訓 - ◆人間の脳では考えによって一瞬のうちに脳血流まで変化する ◆試合の途中で、勝った、もうすぐ終わりと言った結語を考えてはならない ◆勝負は最後まで勝ち方にこだわる |
体の使い方
情報が目に入ると視覚中枢に伝達されますが、すぐにその部分の上の空間認知中枢で距離とか間合いとか物の流れなどが認知されます。この部分はとても大切で空間認知能力の善し悪しがパフォーマンスに大きな影響を与えるそうです。どうすれば空間認知能力が高くなるかというと、両目を「水平」に保つことだそうです。バスケットボールのマイケルジョーダン選手は空中でもこの目線が常に水平に保たれているようです。バドミントンにおいても非常に参考になると思います。
次に、肩甲骨の動きです。肩甲骨は腕を使うときの「オモリ」なんですが、このオモリがずれていると腕をちゃんと使えないそうです。したがって肩を使うのではなく、肩甲骨を振るように腕を使うことが出来るとスマッシュなどでも先に伸びていくと言われています。イチロー選手は肩甲骨を振るトレーニングマシンを使って鍛えています。やはり大切な部分です。 3番目は大腰筋と腸骨筋です。ここが鍛えられている人はお尻の位置が上がっているので足が長く見えます。強い選手はこの筋肉のおかげで体軸が強いのです。水泳の北島選手やマイケルフェルプス選手はとても鍛えられているそうです。鍛えるヒントとなるのは赤ちゃんが行う「ハイハイ」です。このハイハイが速い人は運動能力が優れています。生徒には乾拭きで雑巾がけをさせていますが、これも良いトレーニングになっていると思います。 4番目は「可動体軸」。これは上半身と下半身の分離点、ちょうどみぞおちの奥の部分です。この部分を意識して運動をすると上半身も下半身もよく動きます。最もよいバランスはやや前傾している形だそうですが、卓球などではラリーで押し込まれて日本選手はこの体軸が徐々に立ってしまい負けてしまうということでした。 日本選手のジャンピングスマッシュを見てみるとこの体軸が立っているとのことでした。逆に中国選手は前傾しているということでした。やはり強さには秘密があるのですね。 以上をまとめると 1.水平目線の精密な空間認知能力 2.腕の動きを高める広い肩甲骨の可動能力 3.腰の切れを生む腸腰筋と安定体軸姿勢を作っている 4.上半身と下半身の運動能力を発揮する可動体軸とこの支点を意識するバランス体軸 です。視点、意識する運動や場所、トレーニングする部分など大変参考になる内容でした。 |