上達理論

準備についてバドミントンの6要素トレーニング指導論研究論文

はじめに

上達するためには何が大切でしょうか。シャトルをラケットに当てるレベルはすぐにできるようになる人も多いと思います。しかし、バドミントンは打球の初速が最も速いですが、減速率がとても高いシャトルコックを使用するので上級者はなかなかエラーをしません。ですのでラリーを続けられる高い身体能力が必要となる上に、相手のエラーを誘うためとても深い戦略を駆使するスポーツです。世界で勝つプレーヤーになるためには正確に打つための正しいラケットワーク、フットワークを体に覚えこませなければならず、今や世界トップレベルとなった日本バドミントンではゴールデンエイジと呼ばれる感覚が鋭い時期から大会が開催され、上位入賞者には強化が行われ、今のレベルが構築されました。7歳あたりから競技を始め、小学校4年生からの全国大会に向けて指導を行うジュニアクラブが各地で盛んになっています。

上達するためにはシャトルを多く打つ環境は非常に大切で、より正確に連続して相手コートに返球するためにトレーニング、食事、休養を上手くサイクルさせ、「やりたい!」というモチベーションの高い状態を維持することが望ましいです。しかし、ジュニア期から多くの試合をこなさなければならず、さらにレベルも向上しているため、トーナメントも緒戦からかなり厳しい対戦になっています。したがってより効率的な練習や食事、休養の方法が求められます。この情報化社会では知識は簡単に得ることができるので、多くの方がもうすでに実践され、練習方法などにはあまり大きな差がありません。しかし不思議なもので、どれだけ「良い」と言われる方法を実践してみても勝敗にはほんの微細な部分が影響しています。その辺りに気づけないといつまでも巧みな選手には勝てないという結果が待っています。

「油断は大敵」

実力的に差がある場合でも、ほんの一瞬の油断によるエラーがゲームの流れを一気に悪くします。例えば18−13で勝っている時、もう勝つだろうと結果に意識が向かった瞬間に脳血流量は一気に下がり(林成之氏著作より)、体の動きがぎこちなくなります。次の瞬間にはショットが消極的な手打ち状態になり相手に読まれ、前から押し込まれて得点される確率が上がる。点数が縮まるので慌てて「これではだめだ、なんとかしないと」と気持ちを入れ替えようとしても肝心の脳にはまだ血流量が不十分であるため体の切れは悪い。相手は“とにかくこのラリーを取る!”と集中しているのでショットに勢いがありガンガン攻めてくる感じが出てくる。焦っているうちに追いつかれて勝負の行方がわからなくなる、ということは多くの人が経験した事があるのではないでしょうか。

個人的に感じるのは「5点差」がピンチでもありチャンスでもある勝負を決める状況です。負けている時に諦めてしまう人に勝つのは簡単ですが、そこに気づいている人は決して諦めず常に虎視眈々と勝機を狙っています。「逆境」に耐える人は多いですが、勝っているときの「順境」にどれだけ耐える事ができるかがとても大切であると考えます。

「今何をすべきか」

ただ単に「勝つ!」という結果を意識するのではなく、「○○に打ち込む!」「上げずに沈める!」などの作戦に加え、具体的にどのような球を打ち込むのか、どう沈めるのかイメージできているときはその行為に集中できるため、思考が邪魔をせずにいいパフォーマンスが出ます。体がプレーを正確に再現してくれます。しかし、自分がやろうとするイメージが具体的に頭の中で描けていないとできません。コート外でも頭の中でイメージを繰り返し描き、脳が実際にやっていると錯覚させておくことは大切です。

ただ、「今、何をすべきか」もしくは「今、何をしないべきか」がわかれば戦術の方向性もわかるのですが、試合中の時間が限られている中で決断するのはとても勇気のいる事だと思います。ですのでトッププレーヤーでも客観的な目線を持つコーチからアドバイスを受けます。自分の感情はなかなか制御が難しいと分かっているからですね。

そのような状況での判断を周りの意見も参考にしながら、コート上で自ら把握していく事がとても大切で、それをいかに乗り越えていくかにワクワクした好奇心で楽しんで取り組み、さらに練習でそれらの状況を作って経験を積み重ねることができれば直感的に判断できるようになります。そういう積み重ねから培われた直感から来る違和感はとても大切にしなければならない事だと考えています。

練習だからといって「諦め」たり、「油断」したりする心の習慣は、試合で同じ状況になった時に、普段の練習どおりに出て、良いパフォーマンスに繋がりにくいという事に気づかなければなりません。

「今頑張ってもどうせ勝てない」

よく試合で見かけるのが点数差が開いて負けている時、いいプレーが出たとしても「この1点を取ったところでどうせ勝てない」という結果への思考から「どうせ頑張っても負けるのだから頑張るのは損だ」という「損得勘定」です。大差で負けている時に1点取ったとしても「よし!」と声の出ない人はいませんか?もちろん結果への意識から離れて集中している時はあえて出さないこともありますので一概には言えませんが。

この損得勘定は勝っている時には「油断」、負けている時には「諦め」という形で出てくるので「競っている時」以外はいいパフォーマンスにつながりません。逆に考えると「競っている」状況に満足感を覚えるため、その状況を無意識のうちに再現させているのかもしれません。そしてその満足感を得るために、勝つためにプレーするのではなく、ただ「私は頑張ったんだ!見てた?」の自己アピールに終わります。この「損得勘定」習慣は日常生活に密着することが多く、指導者や親の影響も関わってくるので難敵です。目の前の損得に左右されない心構えを普段から意識してください。効率的に見えるものが実は大切なことを学べていないことだってあるのです。

「挨拶、返事、靴の踵(かかと)を揃える」

一流選手は「素直で明るい」。多くの指導者が口を揃えてそう例えます。さらに「謙虚だが大胆」とも言われます。もちろん幼少期からそのような性格である人もいないわけではないと思いますが、選手生活の中で良い指導者に巡り合ったり、衝撃的な体験を乗り越えることでそのような性格に磨かれていくことが多いと思われます。

もの心がつく前に、特に15歳までには、躾として「挨拶、返事、靴の踵を揃える」習慣付けを行う事で損得抜きの素直で明るい、そして持続できるタフな性格に変えることができます。指導者はアメとムチを使い分けるのではなく「人としてどう生きるのか」の種を確実に蒔かなければならないと思います。そのため以下の3つについては指導者自身も範となり実践する事が望ましいでしょう。

挨拶・・・「おはようございます!」「こんにちは!」と相手よりも早く行う。人によってするかしないかを判断しない。

返事・・・呼ばれたら“すぐ”に大きな声で「ハイッ!」と返事する。

靴の踵を揃える・・・下足箱などに靴を入れる場合、縁に踵部分を“ピタッ”と合わせる。トイレなど脱いだスリッパは揃える。引いたイスなどは入れる。

(森信三「修身教授録」より)

モチベーション

「勝ったら焼き肉な!」

試合に勝つことで賞金が出る事もあり、それがモチベーションになる事もあります。確かに限りある人生の時間を費やしているのでそれ相応の報酬があるのは良いことと思います(バドミントン競技の賞金は他のメジャースポーツと比べれば約100分の1と低すぎるとも思いますが)。

しかし、勝負には勝敗がつきもの。なかなか勝ち続けることは難しく、結果がでなくなると、勝利が長続きする動機付けにはならないことがあります。ジュニアナショナルの大会においてもそのような“ご褒美”をちらつかせることがあったので冗談であって欲しいと思ったものです。そのような外発的動機づけである“ご褒美”や結果が伴わない時に“怒ること”は一時的にやる気は出るものの刺激に慣れてしまうため長続きはしません。

いろいろな指導があったとしても、それらを自ら判断して実行に移してきた人と、言われるがままにやってきた人では、内発的動機づけに大きな差が生まれます。自ら判断してきた人は行動全てに自己責任が伴います。うまくいかなかった時はどうすればうまくいくかを考え、うまくいった時はなぜなのかを考えます。あらゆる状況で考えて実行した結果が蓄積されていくので、うまくいったという成功体験が多く、強く心に刻まれていきます。しかし指示通り動いておけば「怒られないで済む」ような練習を積み重ねている人は、結果に対して自己責任を感じられず、順境や逆境をどう乗り越えたかの方法を多く、強く心に印象付けられません。

あらゆる体験を成功への道標にするべく、何事も「やらされ」ている行動を「自ら選択している」行動に変えていかなければなりません。

報酬とは

バドミントンをやる事の報酬は何でしょうか。もちろん「勝つ」事でしょう!と考える方は多いと思いますし、その経験は必要です。「勝つ」ことで仕事が増えたり、友達や周りからの賞賛が得られるかもしれません。指導者はもちろん勝たせる為に指導します。しかし、本当の目的は「勝たせる」事ではありません。勝負には終わりがないからです。勝ったら次も、もっと上をと次から次へと目標が出てきます。周りからの期待も膨らみ、対戦相手からは「敵」として見られる事もあるかもしれません。

勝つために今まで色々な事を悩み試してきているはずです。そしてその時々で結果が出ている。そこからさらに「もう少しこうすれば」と工夫し試行錯誤する。そのような「障壁をどう乗り越えられるか」を真剣に試している経験こそが貴重で、この複雑で流れの早い世の中を生き抜く方法を学ぶことが報酬なのだと思います。人生はバドミントンだけではありません。いろいろな方向から客観的に問題を見て、それらをどう解決していくかを、時には周りの人とともに、時には独りで向き合うことができるという能力がとても大切なのです。

掃除は心の掃除

きたない所を触るのは誰でも嫌がるものです。しかし、日常生活での感情の抑揚から多くストレスを抱え、解消されない事もあります。一番おすすめなのはやはり掃除。綺麗であってもより綺麗にする気持ちと、さらに掃除する行為に集中する事で、心が整理されてゆきます。

キャリーバッグの中は整理されていますか?

それを練習場所できちんと置けていますか?

そういう道具を大切に扱えていますか?

机上や部屋も同じで、散らかっているとその部分から負の波動が出てきて身体や心に影響を与えます。「断捨離」が話題になっているのもうなずけます。さらに進めて実践できるのであればやはりヨガと瞑想は避けて通れません。これは宗教ではなく心身共に調整する最も効果的な方法です。

瞑想実践おすすめ本「問題解決のための瞑想法:天外伺朗著」

心と身体は影響し合っている

良いパフォーマンスを出すためには心はある程度緊張感を保ち、身体は程よく脱力できていなければなりません。心に緊張感が無くリラックスしきってしまったり、体もやる気に満ち過ぎて力んでいる状態ではうまくいきません。この「程よく」、つまり楽器の弦でいう張りすぎず、緩みすぎずというところです。

心から体へ・・・
「一生懸命が楽しい!」
「プレッシャーはみんな同じ!」
「大丈夫!」
と念じる。

体から心へ・・・
○軽く感じる、力んでいると感じるときは前腕を内転させて肩の力を抜く。
○軽くジャンプして着地時に体重を床に落とすようにイメージする。
○呼吸をゆっくり深く3回吐き出す。逆に心が何となくやる気になっていないときは○5〜10回強く息を「フッ!フッ!フッ!・・」と吐き出す。
○つま先立ちを3秒行い、そのあとかかとを地面に落とす。

トレーニング→食事→休養のルーティン

トレーニング

トレーニングで「ストレス」を作り、その後の食事・休養という「回復」を繰り返すことで体はより強靭になっていきます。このストレスには、肉体的・精神的 なもの両方が含まれます。「ストレス」と「回復」の波は大きければ大きいほどより強くタフになることができます。波が小さいとどうなるか…。ギプスをした ことのある人は、気付いたと思いますが、数週間ギプスをして外した後、その部位の筋肉はすっかり小さくなってしまっています。これは、「ストレスがかから ない状態」であると、この波が起こらなくなり、弱体化した一つの例です。

最近の指導場面で、「この選手はやる気がないから伸びない」「やる気をすぐになくしてしまう性格をしている」などと、選手の性格の問題として「やる気、モチベーション」を扱うことがみられます。人間は、本来「やる気」に満ちた状態が普通なのですが、目標を失っていたり、ストレスが強すぎる場合など、 ストレスと回復のバランスが崩れているときに「やる気がでない」状態を起こします。

図のように、正しくトレーニングと回復の曲線が作られている状態(幅は大きいほうが良い)では、積極的なやる気が出てきますが、ストレスが大きすぎる状態(オーバートレーニング)では、痛みなどの症状が現れ、波が小さすぎる状態や回復が多すぎる状態(アンダートレーニング)では、無気力や無関心などの症状が現れます。これではやる気は戻ってきません。

モチベーションを保つには小さな成功体験を積み重ねることが大切です。そして徐々に負荷を上げていく方法を実践しましょう。

強いストレスを受けることは大切ですが、それに伴う回復を積極的に取ることも大切なのです。したがって、特に精神的なストレスを受け続けた後などは「ぼんやりする時間」を、自分で計画的に作る工夫が必要です。また、読書や音楽、映画、旅行などはとても良い時間の過ごし方だと思います。特に読書はいろんな人に出会え自分を磨く強力なツールになります。まずは読みたいジャンルから始め、そこで紹介されている本をつないで読んでいけば良いと思います。本当の出会いも必然、出会うべき時に出会っているのでチャンスを逃してはいけません。特にスポーツをする人には読書は必要だと思います。

肉体的にも精神的にもストレスを与えることが大切ですが、特に肉体的にトレーニングを積むことは、精神面にも影響を及ぼし、活動的で積極的な精神状態へと戻っていきます。

食事

ジュニア期などはよく「食べさせられる」光景を目にします。食の細い人にとっては苦しい訓練ですが、この食事トレーニングとも言えそうなものも一概に全ての人には当てはまらないのではないかと感じます。ただ、伸びる時には「食べなければならないものを食べたくなる」ものであり、好き嫌いなども食べなければならないと本人が自覚した時には率先して食べるようになるものです。最近の話題では、トップアスリートは朝食を腹一杯食べるのではなく、「青汁だけ」「ヨーグルトとフルーツだけ」「野菜ジュースだけ」「水だけ飲んで食べない」というアンケート結果もあるようです。ただ、ジャンクフードばかり食べたくなるのは明らかに体に異状があります。逆に体がそういうときはそのようなものが欲しくなってしまうので注意すべきタイミングなのかもしれません。

また、内蔵の調子はとてもプレーに影響するため、試合前などは食べる内容に特に注意すべきだと思います。私の感覚では食べたくなるものはそれにしたがいますが、そうでない場合はできるだけご飯や麺類のような消化の良いものを選ぶようにしています。摂取する時はお腹が鳴るようなタイミングが大切です。逆に試合後やきつい運動の後は肉類を食べたくなります。それも自然なのかもしれません。

休養

極度の痛みを伴うような場合完全に安静にします。それ以外は積極的に行動し、ジョギングや旅、読書に没頭するなどが 望ましいです。仕事などで精神的にストレスを受けた後は、積極的にルーティンされたトレーニングを行うことでより回復ができます。タバコは中毒症状から回復を妨げ、アルコールは分解に回復力を使うため本来回復してほしい部分まで回復が 至らない場合があります。

大切なことは、休養するための時間を計画的に自分で作り出すことです。

ジム・レーヤー氏の著作「メンタルタフネス」に「今日だけは」という詩があります。是非実践してみてください。

今日だけは
私の前に問題が立ちはだかっても、それにチャレンジしていこう。今日、私は偉大な問題解決者になる。

今日だけは
私は戦いが好きになる。私は自分自身で楽しい状態を作り出せる。私は自分に与えられたものを受け入れ、文句はいわない。

今日だけは
私は適切にエクササイズし、食事をし、訓練をする。自己鍛錬が私の求めていた自信をもたらす。

今日だけは
私は自分がどう感じるかの責任を持つ。感情のなすがままにはならない。

今日だけは
私はリラックスし、ぼんやりする時間をとる。リカバリーは私のトレーニングに必須のものだ。

今日だけは
私は従うべきプランをもつ。プランがあるから私は焦点を定め、きちんと整理できるようになる。

今日だけは
「時間があれば」と言うのをやめる。時間がほしければ時間を作るようにする。

今日だけは
私は自分の間違いの中にユーモアを見つける。心の中から笑うことができれば、私は自分自身をコントロールできるということだ。

今日だけは
私は最善を尽くす。自分のやったことに満足する。

今日だけは
トレーニングのルーティングでいつものことを非常にうまくやる。小さなことが決定的な違いを生み出すからだ。

今日だけは
私が自分自身の中に決定的な違いを生じさせ、自分の世界をコントロールしていると信じることに決める。

その選択は、私自身が行う。

<参考文献>
ジム・レーヤー 「メンタルタフネス」