試合を重ねてくると、「勝ちたい」という気持ちから「シャトルをいい位置でさわりたい」「強いスマッシュを打ちたい」「正確にシャトルをコントロールしたい」「相手にわからないように打ち分けたい」とより要求が高くなってくるものです。

筋肉の質や量、体格の差はある程度パフォーマンスに影響しますが、バドミントンでは強烈なスマッシュが打てる、フットワークが速いということは武器の一つに数えることは出来ますが、だからといって必ず勝てるとは限りません。
スマッシュもコート奥から打たされたり、素早いフットワークも戦術によっては動きを止められたりするからです。しかし、武器の一つとしての強いショットや素早いフットワークを獲得することは望ましいと思います。

何十年とバドミントンをやってきていても、スマッシュが浮いてしまう、スマッシュレシーブで強く押し返せる感じがしない、タイミングをずらされると近くのシャトルであっても届く位置まで移動できないという経験をします。しかし、逆に構えることを意識していないのに何でも打てる、返せない感じがしないという時もあります。難しいものです。

前置きが長くなりましたが、人は重力で地面に接地しており、2足で立っています。4足ならば問題無いのですが、知らず知らずのうちに転ばないためのバランスを取っています。バドミントンではラケットを使ってシャトルを打つため、打つ動作でラケットを持っている側にバランスが傾きます。そのために打った後、バランスを崩して転ばないように頑張っていると、次の準備が間に合いません。したがってラケットを持っていない腕の使い方がとても重要になってくるのです。

私は右利きですが、試合後なぜか左腕の二の腕(上腕三頭筋)が疲れていることが多くありました。そこまでバランスを保つために使っているのかと疑問でしたが、調べてみると色々なスポーツでも仕事をしていないと思われる逆の腕は同じくらいの筋力を発揮しているということを知り合点がいきました。

さて、上半身の左右のバランスは逆手をうまく使えばバランスがとれることはわかりました。しかし、いざラリーになると最初は意識していても、逆手が使えず手打ちになることが多いのでした。「左手が下がっている」と指摘を受け、そのときは「ああ、そうか・・・」と受け入れるのですが、「決める!」とか「危ない!」という感情が出てきたときは、そのショット後の姿勢が悪く、バランスを崩したままでの対応になり良いショットは打てませんでした。そういうときはシャトルがあまりよく見えていないのです。視界の隅の方でおぼろげに線として見えているイメージでしょうか。したがってエラーにつながったり、とりあえず当てて返すだけという対応が多くなることが多くありました。

下半身についていうと、より速くシャトルの方向に対して移動し始めることができるように股関節で調整することが大切です。しかし、肝心の上半身のバランスが傾いているとそれを修正する動きに終始してしまい、移動したりラケットを振る動作へ地面からの力を十分に伝えることができません。結果、シャトルをコントロールできず、相手に先手を取られたままで攻撃の機会は与えられずラリーを終わらされてしまいます。

打つ動作のバランスは逆手を使って修正、しかし、それは打つ前に整っていなければ逆手を使うことさえ難しくなると感じました。
その中で、古武術(甲野善紀氏)の体の使い方、韓氏意拳(光岡英稔氏)の動きからバランスをどう整えるか、「つながる」動きとはどういうものなのか、探る試行錯誤を繰り返しているうちに、上半身の中でも特に「肩甲骨」の位置というものが非常に大切であると感じるようになりました。色々な情報を探ってみても、肩甲骨は肩こりや目の疲れなどとも大きく関わっており、それは姿勢の善し悪しにもつながっているようです。

「前腕を内転させることで肩の力が抜ける、肩が落ちる」

相手からのショットを狙っている時にこの動作をすると、地面にすっと立てている感覚からか、ボディへの鋭いアタックに対して、強く返すことが出来て、さらに、次の返球への準備もできていることがありました。目線も下がらず、シャトルはしっかりと両目で捉えられていました。また、姿勢が良くなるのか相手のディセプションに対しても最小限の動きで反応できることがありました。

しかし、前腕を内転させることばかり意識していても、その動きをすれば大丈夫という思考に傾くと、また上手くできないことも多いのでした。その動きをきっかけとして実際の体軸がどう変わったのかという細かい感覚までは把握できていない為です。

そんな時にショートサービスが手打ちになり、浮いたものしか打ち出せないことがありました。練習では沈むものの、いざ相手と対面すると「入れなければ」「沈めなければ」というプレッシャーからか「サービスの形」に拘り過ぎるため、その力みからバランスが崩れていたり、目線が傾いていたりということに気づかないまま打ち出すため、体は違和感を感じているにもかかわらず、その違和感を修正しようと不自然な打ち方になってしまうためでした。

「なぜ持っているシャトルをそのまま前へ押し出せないのか」

何度も試行錯誤が続きました。肘伸展だけでは回転運動になるため手首などの調整が難しくなる。とすれば肩甲骨を引いた状態から押し出せばいいのでは...。
なぜ肩甲骨を引くことさえ難しいのか。プレッシャーを感じると肩が上がり、そのまま後ろに引けない形になっているのではないか...。または、前に出した形から始めて固くなってしまっているのか。
やはり、姿勢が大きく関わっている、そのための心の整理、それに伴う準備のルーティンが大切であると感じました。

サービスの前に肩甲骨を引いたり、出したりして動かす準備運動をすることで肩甲骨が偏らない位置からショットを始めることができれば、手打ちになることが少なくなったため、上半身のバランスはある程度整えられていると思われます。

少し調べてみると「顎ー舌骨ー肩甲骨の平衡システム」というものもあるようです。
「顎と舌骨ー肩甲骨のバランスが整うと抗重力位においてもその自由度の高い肩甲骨システムが姿勢制御に効果的に働くのです。つまり顎と肩甲骨と舌骨は絶妙に身体の重力バランスをモニタリングしシーソーのように揺らめく役割を果たしているのです。」(フィジオ運動連鎖アプローチ?協会~活動報告~より)

姿勢を司る肩と股関節は複雑な動きの出来る球関節です。人間の体はなんと上手く作られているのか本当に感心します。トップ選手の動きを解析して数値化し、ある程度理解することは出来ますが、やはりそれは断片的なもの。動きをトータルで見ていく為には、もっともっと身体からの感覚を感じ取るための思考停止、暴れたり自己批判する心を手放す訓練が必要であると考えています。感覚はとても人に伝えることが難しく、その言葉を探すのも一苦労しますし、それが伝わっているのかどうかもなかなかわかりません。しかし、色々と試行錯誤されておられる方々の一考となればと思います。

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