バドミントンで得点するために基本的に考えられるところは以下の3点だと思います。
1.相手から遠いところへ打つ(技術的部分を攻める)
2.待っていないところへ打つ(戦術的部分を攻める)
3.ラリーをつなぐ(体力的部分を攻める)
その中でショットをコントロールしなければなりませんが、最も大切なのは「強いショットが打てる」ことだと思います。バドミントンは初速が最も速い球技です。したがって初速部分を見極めるのは非常に難しい場合があります。相手の体勢や位置、ラケット面を見て、ある程度ショットを予測しますが、実際にシャトルをはっきりと目で捉えられているのは減速後だと思われます。しかし弱いショットに対して相手は早い段階からシャトルをしっかりと目で捉えられています。「とりあえずつないだカットがネット前でプッシュされた」などが起こってしまうわけですね。
強打ができない
私はジュニア期に肘関節の軟骨が剥離して手術で摘出しました。いわゆるテニス肘です。その後も競技を続けて行くうちに徐々に骨が変形していき、関節の可動域が狭くなっていきました。3度目の手術で関節を元の可動域に戻す手術を受けました。関節の可動域は少し広がりましたが、神経はすぐには反応してくれず、整形した骨に神経が触れ、指の力が入らなくなりラケットが握れなくなりました。4度目の手術で神経を移動し、骨との接触からは免れましたが、一度損傷した神経はなかなか回復しませんでした。神経の行き渡らない小指と薬指の筋肉は痩せて、握力は一時15kgくらいまで落ちていました。
そんな状態で私が勝つために考えていたのは以下のようなことでした。
1.小さな力でラケットヘッドを操作してスイングロスの少ない位置へセットすること
(特にダブルスではラケットヘッドが体から遠くにあると、速いラリーでは握力で微調整ができないため)
2.ラケットを振る力を大きくするために体幹のバランスを整えて全身の力を利用すること
(安定して立てると重力をシャトルに伝えられて強い球が打てる)
3.スカッシュなどのラケットを振って大胸筋、上腕筋、前腕筋を鍛えること
(握力強化が期待できないので、他の部分で補うため)
4.緩いショットで工夫して攻めること
(ネットより下で触らせる、センター狙いなどで迷いを誘う、早く前に入って攻める)
ある程度まではうまくいきました。しかし強い球が少ないと相手によっては全くプレッシャーをかけられず、相手の“余裕”を見るとこちらが力んでしまったり、スマッシュしても前に入られて押し込まれたりする場面が多く起こりました。それでもつながれること前提でラリーを考えたり、スマッシュのコースを読まれないように工夫をしていました。
シニアトッププレーヤーから学ぶ
色々なシニアトッププレーヤーと接していく中で、“強打によってゲームを打破していく”のを目の当たりにしました。全力でスマッシュ、強く押し返すレシーブなどを見ているとバドミントンの本質的な魅力がそこにあると感じられました。今までの私は握力が弱いためにそれ以外で勝負しようとしていました。しかし「やらなければ強くならない」という教えを学び「強く打たなければいつまでも変われない」と確信しました。今までは「打っても切り返されると嫌だ」「スマッシュを押し返せないので前に沈めよう」と逃げていました。しかし、できるできないに関わらず「強く打ち込む!」「強く押し返す!」という気持ちがなければショットにもゲームにも勢いが生まれないことがわかりました。「できる!」「やる!」とイメージすることがまず大切だったのです。
年齢を重ねるということ
「力が弱くなってきている」「頭を使わないと」「怪我をしたくない」ということはもちろん考えると思います。シニアのトッププレーヤーの方々も同じでした。最近はロビングの精度が悪いとも話されていました。色々なところがショットに影響していることもみなさんわかっておられます。しかし「もっと打て!」「もっと押せ!」と檄を飛ばしてくれる先輩のプレーを見ていると本当に楽しそうでした。それに感化されて打ち込んでいく方々もたとえ試合に負けたとしても本当に満足そうでした。まだまだ成長できると感じておられるからでしょう。最近思うのですが、人はいつまでたっても未熟なのだと思います。私自身を振り返ってみても失敗ばかりで、できないことだらけです。しかし未熟だということはまだまだ成長できるということです。年齢が重なってきたとしても成長できます。「色々考えてはるんですね〜」と冗談っぽく言われることもあります。しかし私はどうやったらうまくいくかを考えることが好きで、その時間は本当に充実しています(変な人ですね)。
どうやったら強く打てるんですか?
イメージ、気持ちが大切なことはわかりました。しかし実際にどうやっているのかを見つけるためには膨大な時間がかかる場合もあります。もちろんネットで情報を収集してもわかることもあると思います。しかし実際に目の前で学ぶ方が印象深く、その人からの目には見えない感覚というものも伝わっているように思え、今でもその様子はイメージとして記憶の中に残っています。言葉でどれだけ伝えられるかわかりませんが、その内容は一言で言うと、
「打った瞬間後にラケットヘッドを止めること」
でした。はいはい、それね。と言ってしまえるような単純なことです。しかし私にとっては打つまでの動作を如何にうまくするかばかり考えていたので衝撃的で、それまでうまく力を伝えられなかった原因がそこに集約されていると感じました。
ラケットヘッドスピードを最大限にする
ボクシングや空手では、打つ時に前に出した後、引くようにするとパンチが強くなると言われています。ラケットを止める動作とはやや違う感じがしますが私は共通するものがあると思います。ラケットヘッドは握力の握りこみで止めます。逆に言えばインパクト時にはそこまで強く握り込んでいないそうです。そこまでの速度は肩関節や肘関節で作っていきます。手首はほぼ固定なので速度を上げるためにはあまり関与していません。
ラケットを持つ時には、「親指と人差し指、中指で支えるのがやりやすい人」と、「小指と薬指で支えるのがやりやすい人」がいます。私は小指タイプですので打つ時には親指や人差し指、中指には若干遊びを作っておくようにします。人差し指タイプの人は逆ですね。この方法でうまくラケット面を操作するには練習が必要です。またラケット面だけでなく腕を振る方向も正確に調整しなければなりませんので、肩の力は抜いておかなければなりません。そうなると立ち方も大切になってきます。この辺りの話はまたいずれ。
ハイバックが飛ぶようになった
私にとっては鍵となる小指と薬指の握力。使わなければならないことはわかっていましたが神経のせいで苦手意識があった部分。とにかくやらないと!と「打った後に握りこみで止める」練習を繰り返しています。それをスマッシュやレシーブ試していると、ふとハイバックで試すとどうなるかをやってみました。肩の力を抜いて、当てるまでは小指と薬指でヘッドを立てるように支えて、打った後に握りこむ!
「えッ?こんなに楽に飛ぶの?」
衝撃でした。それまで打点や腕の振りを考えていろいろと工夫してきましたが、打った後にラケットヘッドを止めることを意識すると、打つ前のラケットヘッドの重みをより感じることができて、タイミングが合わせやすくなりました。これならハイバックスマッシュも打てるかもと思える感覚だったのです。苦手だったハイバックでしっかりと後ろまで逃げられると思えるようになるとよりリラックスできる自分がいました。
強打はゲームの流れを左右します。もちろんそれだけでは勝てないこともありますが、強打ができると緩めることもできるようになります。その緩急でゲーム展開を有利に運ぶことができたら…。考えただけでもワクワクしませんか?
「力がないので打てない」「打ったら疲れるので打たない」と考えてうまく戦術を組み合わせるのも勝つための一つの方法です。しかし、全力で打ち込んで強いレシーブで切り返され、それを必死で追ってつなぎ、攻守が変わる中でラリーに耐えて勝つ!というところにもバドミントンの面白さがあるように思えます。皆さんも一緒に目指しませんか?全力プレーの先の世界を。
ーおまけー
ラケットを使って簡単に握力(手首)を鍛える方法として、トニー・グナワンさん(元オリンピック金メダリスト)が動画を公開されています。是非一度ご覧になられることをお勧めします。
Quick Tips for Wrist Power with Tony Gunawan
【日本語翻訳版】
トニー・グナワンが教える手首を強くする方法