プロ意識

人の心には常に欲望の種があります。外からの刺激(見る、聞く、触る、臭う、味わう、思考する)によってその種が活性化し、欲望を満たす脳内ストー リーへと心は引っ張られてしまいます。そうなると集中力は低下し、本来の実力を発揮することができません。つまり、欲望通りに行動すると、悪いショットが 出る確率が高くなると考えられます。

 

よく、「欲望が無ければやる気が出ないじゃないのか?」と耳にしますが、欲望は結果への執着、やる気は所作への集中力を楽しむ気持ちと解釈すると、全くの別物であると考えられます。

 

欲望を抑えるためには、自己ルールを課すことが大切です。その最も初歩として「物事の好き嫌いを無くす」こと から始めるといいと米長名人の著書「人間における勝負の研究」に書かれています。バドミントンにおいても、苦手意識や弱点があると、それによって感情が動 かされ勝負になりません。勝負においては「選り好み」する我が儘は許されないのです。中でも「食べ物の好き嫌いの激しい人は、感情に動かされやすいと思 う」と書かれていました。

成長段階では「長所を伸ばす」教育法は有効ですが、世間から認められる上級者にとってはほんのわずかな欠点が命取りになります。ですので、我が儘と甘えでウィークポイントを作らないことが大切なのです。

 

アマチュアとプロに違いについても記されており、その差は、集中して練習した時間に関係し、プロは約6000 時間集中を維持した者であるようです。集中力を維持できる限界はおよそ2時間。それを一日に2回行うと4〜5年になります。もちろん環境も関係あります が、どれだけ集中して取り組み、工夫するかによって大きな差が生まれることは言うまでもありません。

 

 

「勝負は勢いのある方が勝つ」

 

「世の中の事象はすべて波に支配される」ように、実力が似通えば形成の善し悪しが必ず起こります。形勢が良い 時は、攻めの勢いが自然に結果へと結びついているので、じっとして動かない心境が大切です。欲を出さず、平々凡々と事を進めます。しかし、形成が悪い時 は、奇抜な変化を作り出すのではなく、「我慢」してどこで逆転できるのかという「チャンス」をじっと伺うことが大切であると名人は語ります。今は守ってい るが、次の瞬間には攻めて出ることができる「受けの勢い(辛抱)」が大切です。最もやってはいけないことは“猪突猛進”。波の中で状況判断ができないと、 攻め、守り両方の勢いを失ってしまうからです。

 

「今、打って出た方がいいのか」「今はじっと耐える時なのか」を判断することは難しいですが、そのような時に役に立つのが、知識を実践する日頃の努力の賜物、「カン」なのかもしれません。

 

どう攻めればいいかわからないとき、がむしゃらにもがくよりも、相手に「どう攻めますか?」と差し出すのも一 つの攻め方かも知れません。バドミントンにおいて「差し出す」というラリーは、相手にとって“時間”を感じさせるようなショットではないでしょうか。例え ば、高さのあるハイクリアやサービス、ロビング、またはハーフショットなどの弱い球、ダブルスでは2人の間への緩いショットなど。「攻めてください」とい う受け身のショットではなく「迷い」を相手に生じさせることができれば、ミスを誘う確率が高くなるでしょう。「弱い者ほど早く結論を出したがる」という言 葉があるように、自らの判断に自信が持てないような迷いは、相手の感情を刺激し、向こうから「負けてくれる」かもしれません。

 

 

「自分に有利な空気を作る」

 

勝負がついた後、結果について自慢したり言い訳したりするのは、相手や周りの人に嫌みだけが伝わります。さら に、心に油断ができるせいか、次の結果がうまくいかないことも多くなります。勝負が決まってもできるだけ表情を崩さず、勝った場合でも、負けた側の悔しさ を汲み取り、逆に負けた場合は「負けました」と素直に言える心持ちが周りの空気を和ませます。そのような謙虚な姿勢が「あの人なら勝って当然だ」という周 りからの後押しの雰囲気につながるのです。「あいつには勝たせたくない」という空気を作らないように常に自分の行動をチェックしていくことがプロ意識なの かもしれません。

スポンサーリンク
おすすめの記事