バドミントンを考えるコラム#26 「経験」を考える②

「如何に効率よく上達するか…」

 もはやこのシリーズに終止符を打つような内容ですが、効率よくお手軽に上手くなって勝ちたいという最近の流れに「それで結局プレーは上達しているのだろうか?楽しさは増しているだろうか?」と感じることがあります。インターネット上では昨年からさらに多くの情報が流れるようになりました。私もYoutubeでバドミントンについていろいろな観点から発信しています。トッププレーヤーではない私でも何か皆さんのためになることをお伝えできるのではないかと思っているからです。
 いろいろな知識を伝えることで「これか!」と気づく人はいると思います。それはバドミントン以外の知識であったとしてもです。何が気づきに繋がるかは本人次第なので指導する立場の人は様々な分野へ視野を広げ、知識を伝えることは大切だと思います。今まで「これだ!」と思ったていたことでも、新たな実践を試みると根底から覆ることがあります。しかしそれもまた楽しい。色々な考え方があるからプレーも豊かになっていくのだなと思っています。
 体の動かし方、空間感覚、リズムやタイミング、思考と感情、駆け引きなどいろいろな情報を発信してきました。しかし、ここで最も大切なことは実践することです。特にスポーツの世界では「わかったこと」と「できること」は全く違います。ラケットを後ろにまっすぐに引いてまっすぐに出すことさえも頭ではわかっていても難しいのですから…。「あ、そうか!」と気づいてすぐにできる人はそれまでに膨大な時間を費やして準備していることが多いのです。

モチベーション、鍛錬、修練

 バドミントンをなぜ始めたのか。面白そう、運動不足解消、ビシッと打つのが楽しそう、勝つと嬉しい、仲間づくり、進学のためなど…人それぞれ何らかのきっかけがあったと思います。そして続けるうちに「もっと勝ちたい」「プレー自体が楽しい」など目的が変わっていくこともあるでしょう。フェンシング協会会長、太田氏はテレビ番組で「勝つのが楽しかったから」と話しておられました。ジュニア期にこの世界ならオリンピックでメダル獲得を達成できると思い、4000日以上休まず練習に励んだそうです。11年以上休まないって…と驚きを隠せませんでした。ある程度指導者(当時は父親)から休まないように指示されていたとは思いますが、それはあくまでも自主的であって強制ではなかったはずです。脳科学者の茂木健一郎さんの著書(「響きあう脳と身体 甲野義紀×茂木健一郎」)で「脳は強制できない」とはっきりと書かれていました。そして、太田氏は継続するためだけの練習に疑問を感じて休みを入れるようになったそうです。当時はものすごく怒られたそうですが自分の決定には覚悟を決められていたのでしょう。前人未到のフェンシング界における日本のメダル獲得が達成されたのもうなずけます。
 身近なところでも、出会った当初はプレーは粗削りで心も不安定でしたが、徐々に「学ぶ」姿勢に変わっていくにつれ、プレーが全く変わっていった人がいました。何かきっかけがあったのでしょう。それからの鍛錬、修練の積み重ねは今でも終わりを見ません。そのような人を見ていると社会人始めだとしても全国大会で入賞することはできると感じています。

無駄を経験する

 「やると悪影響」というものは避けるべきだとは思います。しかしやってみないとわからないこともありますし、もしかしたらその中にヒントがあるかもしれません。「『非まじめ』のすすめ」(森政弘著)に「ロボットを歩かせるときに、足跡のところだけに床があれば歩けるわけだが、足跡以外の床を切り落としてしまって、足跡のところだけ長い杭を立てて歩かせると歩けない。足跡以外の床は無駄ではなくて“余裕”というべきだろう」と書かれていました。限られた時間を使って練習するわけですからできるだけ効率的にやりたいですよね。しかし、無駄に思えることを片っ端から切り離してやったとしてもそこから新たな発見は難しい。バドミントンで勝つ方法はたくさんあります。相手に合わせた戦術を“引き出す”には多くのトライアンドエラー経験を積み重ねることでしか身につきません。一見「何それ?意味あんの?」と言われてしまうようなことでも真面目に試行錯誤する「余裕」を持つことが大切ではないかと思います。

経験すること

 結果がついてくる、ついてこないに関わらず、行動して経験することがこの星に生まれてきた理由です。そしてお腹から「楽しい」と感じることは、負荷の高いことでもそれほど「苦」に感じませんし、その行動が正解です。うまくいってもいかなくても経験することをためらわずに行動していくと、すべてはいい方向へつながっていきます。うまくいかない理由は一点に拘りすぎているからです。固定観念に縛られているからです。“こうあるべき”“こうすべき”という『べき』です。
 私もロングサービス、ショートサービスともにうまくいかずに悩んでいました。うまく打ちたい、きれいに打ちたいとばかり考えていました。しかし発想を転換。

1)シングルスのロングサービスのグリップはウェスタンでもいい
 回内、内旋を使って腕は振られる“べき”だと思い込んでいた。ウェスタンで押し出しても高いロングサービスが打てることに気づいた。
 
2)ダブルスのサービスはシャトルを持った手を前に出してもいい
 シャトルにラケットをセットする際、ラケットを引くとタイミングが読まれるのではないかと不安になりセットするところまでラケットをシャトル近くまで出せない、またはセットできた後に、引くと読まれるのではないかと後ろに引けずに打ってしまう。結果、浮いて押し込まれる…。シャトルを持った手を前に出せると思うと、セットがうまくいき、押し出す“余裕”も生まれた。また基本的にロングサービスでもいいと思えるようになった。

グリップはイースタン、サービスはラケットだけを動かすものという固定観念を変えてみました。きっかけは人の話であったりフォームを真似したことです。しかしそれまでに膨大な時間をその修正時間に当てていました。おそらく5年以上。この時間は無駄だったか。そうではないと確信しています。それだけうまくいかない時間を費やしたからこその気づきだったのかもしれません。

 もっと余裕をもって無駄を経験していきましょう。自分の心持ちを変えていきましょう。変えることができると信じましょう!

― ひとこと ―

 指導方法においては結果よりもプロセスにフォーカスすると内的モチベーションが高まり、効果が高いと考えていますが、個人の中で「勝つ」という結果にコミットしたモチベーションの持続も大切な要素で、バドミントンでチャンピオンになったことのある先輩方に話を聞いても「絶対に勝つ!」という気持ちでプレーしていたと話されました。オリンピックで結果が出た後の太田氏は後世のためにフェンシングを世に広めるという新たな目標を作ったため、さらに高いモチベーションを保って邁進されているのだと思いました。

勝つためにプレーする → 一人では成し遂げられなかったことに気づく → 周りの困っている人を助ける

この流れに沿うことができる人はより豊かな人生を生きることができるのではないでしょうか。

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