バドミントンを考えるコラム#42 「一流選手の言葉」を考える①

 私は中学校、高校、大学、社会人と全国大会に出場したことはありますが、日本の頂点を決める全日本総合に出場することはできませんでした。中学で肘に故障を負い、手術を重ねる中で「無理かな」と諦める部分もあったかと思います。しかし恵まれた環境にあったため、全日本総合に出場した人と多く知り合うことができ、指導者の立場として関わった高校生がベスト4に入るという貴重な経験をさせてもらいました。そんな中、日本代表選手であった福万直子さんがアメリカで指導にあたると聞き、日本にいる間に一度高校生に指導をお願いできないかと依頼をしたところ快諾していただき昨年の夏に実現しました。私は彼女が小学生の時に大阪選抜合宿に参加したときに初めて知り、当時は「超短髪」だったので最初は男の子かと思いました。身長が低かったにも関わらずアグレッシブな彼女のダブルスは見ている人も元気にさせてくれるプレースタイルでした。

福万尚子さんのプロフィールはこちらからご覧ください

「うまくなりたいか、強くなりたいか」

 はじめに生徒に話されたことは、「うまくなりたいか、強くなりたいか」でした。バドミントンが上手い人はたくさんいるのでしょう。しかし本気で強くなりたいと取り組んでいる人は意外と少ないのでしょう。技術を教えることは簡単です。しかしバドミントンは3ゲームマッチ。勝ち抜くには技術を駆使するメンタルと体力の強さが求められるのでしょう。「強くなりたいです!」という生徒からの返事にはホッとしました。

「チーム全体で取り組めているか」

 バドミントンは個人スポーツです。しかし相手がいないと打ち合いもできませんし、実戦的な練習は難しいです。個人戦では1勝を挙げると1ポイントということにして、大会ごとにチーム全員で「100ポイント」を目標に取り組ませました。70ポイントくらいまではいったのですが、なかなかそのあとはコロナ禍のエントリー数減少によりチームの盛り上がりも少なくなり、私も励まし続けるのを断念してしまいました。そんなこともあり、当時はチーム力が今ひとつで、個人プレーに走る人も少なくありませんでした。自分の都合で欠席したり遅刻したり、自分の練習ではなくなるとやる気が失せてしまったりと一丸で取り組むことはできていませんでした。この辺りも個人が勝つために必要な要素だと彼女は話していました。
 実際に他人のために頑張る方が個人の力が出せます。東大阪大学柏原高校のチームでは学校対抗戦で今まで以上の力を発揮する選手も多くいました。しかし翌日の個人戦は1回戦負けという結果もありました。やはり応援し、応援されるという関係は実力相応、もしくはそれ以上に集中力が発揮されるものなのでしょう。彼女の言葉は私に深く突き刺さりました。

「自分のことを知ることができているか」

 自分の欠点や長所などをどれだけ自分が理解できているか。一流選手がコーチをつける理由は自分を客観的に見るためです。コーチが本人以上の実力者である場合はさらに的確なアドバイスができるかもしれませんが、そうでなかったとしても今までと現在の違いは指摘できるかもしれません。高校生は欠点を指摘されたりすることを極端に恐れる人も多く、また感想などを聞いてもうまく表現できない人が増えています。または意見すると怒られるんじゃないかと様子を伺っている人もいます。そうさせてきた大人たちと現代文明の発達の責任かもしれませんが、この客観的な意見抜きには今より強くなることはできません。ライバル関係にある子供達の間で意見を出し合ったり、アドバイスをしあったりするのは高いハードルがあるのかもしれません。しかしあえて彼女は「できなくて当たり前。教え合い、学ぶこと。」とアドバイスをしていました。彼女自身の経験からもライバルだからといって敬遠したりするのではなく、あえて懐に入り込んでいくくらいの度胸がないとダメだということでしょう。
 私も動画によるアドバイスを始めてからゲーム練習後に色々な人にアドバイスを求められることも多くなってきました。社会人の方々にアドバイスするのはおこがましいことですが、真剣な目を見ると真剣にお答えしています。負けてしまった時は私も自分のプレーを振り返っているので覚えていない時もありますが、ゆっくりと時間をかけて思い出しながらお話しすることを心がけています。アドバイスが的確かどうかはさておきですが。

「常に3ゲームを意識できているか」

 まずはダッシュから始まりました。体育館フロアを一周するのですが、スタート地点は6ヶ所ありました。最初から“追い抜く、追い抜かれる”という競争が組み込まれていました。生徒たちはそういうゲーム形式が好きなので一生懸命に走りました。1セット目は順周り、2セット目は逆回り、3セット目は順周りでした。もうここからバドミントンの3ゲームを意識させていました。

「中盤で気を抜かない」

 バドミントンでは1ゲーム目を取ると2ゲーム目は気が抜けがちになるもの。しかしそんなモチベーションで2ゲーム目を取られた方はそのままファイナルゲームも取られる傾向が強いという経験からでしょう、常にファイナルゲームがあるという意識が大切であることをお話しされていました。ラリーポイントでは1ゲーム目を10点差で取ったとしても2ゲーム目を同じ点差でとらるれることも多々あるのです。シャトルを触らないダッシュという練習の中でも特に中盤、「抜く!抜かれない!」という緊張感を持ちましょうと繰り返して声かけしていました。

次回に続きます。

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