バドミントンを考えるコラム#44 「一流選手の言葉」を考える③

前回に続き、福万尚子さんの講習会から学んだことをまとめてみました。

 ラダートレーニングのあとは実際にシャトルを打つノック形式練習へと入っていきました。最初はオーバーハンドでハイクリアやスマッシュを打ちました。フットワークを使うのでそのあたりへのアドバイス。

「フットワークはステップで音を鳴らすくらいが大切。自分の音を聞こう。」

 音や床との感覚に焦点を当て、しっかりとフィードバックすることを促されていました。実際にまったくタイミングをとっておらず、シャトルが打たれてから動こうとしている人もいます。シャトルに追いつけないので自分の動きが遅いと悩んでいる人もいますが、実際はタイミングをとって準備できていないことがほとんどの原因です。
タイミングをとるステップはできているかを音や足裏の感覚で感じることから始めようという練習は非常に大切だということです。できていると思っていても実際はできていない。この状況を素直に受け止めることは勇気が必要ですが大切なことです。

「左右方向で得意、不得意がある。得意は伸ばし不得意は覚えておくこと。」

 もちろんフォアハンド、バックハンドで得意不得意はあるでしょう。しかしフットワークにおいても右足を出す、左足を出す、で得意不得意があります。得意な方はもっともっと正確に操作できるようモチベーションも高く練習を積めるでしょう。しかし不得意な方はやはり難しい。克服しようとしてもなかなか気持ちも乗らない。嫌がって練習しないとそれもやはりうまくなれない。ここで福万さんが伝えたかったのは、一生懸命に取り組んでもうまくいかないこともある。でも頭の片隅にいつも置いておくと答えは自ずと向こうからやって来ることもあるということです。実はヒントは近くにあったりするのですが、気づきがないと気が付けません。常に気配りができているか。これはバドミントン以外でも大切なことで、私もこの言葉を聞いて身が引き締まる思いになりました。周りの人に気を配り、その人を助けることで自分自身も助けてもらえる。自分の力だけではたどり着けないところにも周りの人の協力があればたどり着ける力を得られるかもしれません。そういう心構えまで含んだ言葉だと感じました。

「フットワークがうまくいかない理由は“跳びすぎ”」

 シャトルを打つときにタイミングがずれればうまく力が伝わりません。そこには筋力以外に重力も関わってきます。宇宙飛行士の向井千秋さんはボクシングの村田諒太さんとの対談で「無重力空間では物が落ちてこないけれど、地球に戻って来るとものはまるで地面に叩きつけられるように動く」と話されていました(村田諒太channnel:https://youtu.be/U8QR5Amp3h4)。それだけ普段は気づかない強大な力が働いているということです。フットワークを使って体という重い物体を移動させるわけですから、当然タイミングがずれればうまく移動できません。
 ラリー中はシャトルや相手を目で追っているため、自分の足が床に接地するところを見ている人はいません。全て足裏の感覚だよりになります。跳ぶと感覚的に床に接地するタイミングは体が感知できますが、緊張などが絡んで跳ぶと実際のジャンプ高は把握できていないことがあります。そうなると着地でのバランスが崩れやすく、相手の返球にもさらにタイミングが合わせにくくなります。「より高く、より前で」という指導がよく聞かれるのですが、レベルが上がれば上がるほどこれは場合によっては逆効果を生み出します。
 またフットワークでタイミングがずれる理由は、「大きく一歩で足を出しすぎ」も考えられます。高く跳びすぎはタイミングがずれるのでわかりやすいのですが、特に追い込まれた前の球をとるときに大きく一歩で移動してしまうと接地とインパクトのタイミングがずれやすくなります。大きな重力が作用してラケットヘッドの動きを妨げてしまいます。福万さんがここで話されたことは

「間にステップを入れて修正すること」

でした。ここに彼女がラダートレーニングで細かく早く正確にステップする練習をとても大切にしていることが表れています。それだけシャトルへのコンタクトはフットワークの方向やタイミングが微細な部分で影響し、ショットの正確性にも大きく影響すると考えているからです。
 実際に自分の試合でも大きく一歩を出して移動しているときは疲れてくるとショットが乱れやすく、追い込まれるパターンが多く起こっていました。しかし細かくステップを入れてラリーをしているときは粘ることができて、守りから攻めへの切り替えもスムーズにできていました。追い込まれても粘れる感覚が出てきます。
 細かくステップを入れると最初は非常に疲れますし、姿勢を低く保たなければできません。しかしこれも日頃の練習からの意識で変えられるところです。歩くとき、階段を上がり下がりするとき、方向転換するとき、いつでも姿勢を低くして、すっと足を出していく動作を意識すると身についてくると思います。

「シャトルを見てもいいがその周りの景色は見えているか」

 シャトルは見すぎると次の準備が間に合いません。ある程度見てもいいですが相手のフォームやラケットに視点を向けるようにします。しかし、彼女はその周りの周辺にも気を配ることが大切だと言っていました。私自身も意識していますがなかなか視野を広げることができていません。「相手の右肘を狙う!」と意識できているときは見やすいのですが、「このショットはエラーできない」などと考えているときは全く相手を意識できていません。自分の中への意識を如何に広げていくか。宮本武蔵が「五輪書」でも書かれていあるような「観」の目はどうやるのか。まだまだ奥深い部分があるような気がしています。

次回はダブルスでのレシーブについてのお話をしていきます。

福万尚子さんのプロフィールはこちらからご覧ください

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