バドミントンの魅力は何でしょうか。やり続けているといろいろ出てくると思いますが、最初は多くの人が「スピード感」と感じるのではないでしょうか。実際に球技スポーツ界では最速の400㎞/時を誇りますし、上級者の速いスマッシュや動きに驚きを感じるものだと思います。上を目指して続けていると勝ったり負けたり、負けたり、負けたり…と上達すればするほど、より強い相手との対戦が増えてきます。なかなか勝てない…。そうしているうちにもっと「強い球を打ちたい」「速く動いて打ちたい」という気持ちが出てくるのではないでしょうか。私がバドミントンを始めたのは中学生からですが、当時の身長は約140㎝。周りには身長160㎝を超える同級生達もいて、しかも中学生はナイロン球を使っていたので強いスマッシュを打つことができればほぼ取られないという時代でした。まったく力でもスピードでも高さでも相手になりませんでした。圧倒的に負けるのが悔しくて日々悩んでいる中、どうすれば勝てるのか?を真剣に考え、やはり当時一番の武器になっていた「強いスマッシュ」に憧れました。腕をぶんぶん振り回して打ちまくった挙句、肘を壊し、強いショットを打つのはあきらめざるを得ませんでした。それでもバドミントンは面白かったので、「素晴らしく速いスマッシュは打てないにせよ違う勝ち方はある!」と考え方を変え、今度は速く動いて、さらにジャンプも加えて打点を高くすることで相手をスピードで追い込むという方法に切り替えました。よく決まるようになり県大会では勝てるようになりました。しかし地方大会や全国大会ではジャンピングスマッシュもコースを読まれてつながれるようになりました。次第に足が疲れてきて息が上がり、エラーが増えて負けることが多くなってきました。全日本シニアダブルス準決勝では2ゲーム目に完全に見切られてしまい、ファイナルゲームでは一方的に攻められて負けたこともありました。対戦相手の方に話を聞くと「がんばりすぎやな…」でした。
バドミントンを始めたての初心者は返球に対する準備イメージが少なく、目の前にシャトルが来てから打ち返そうとします。ラケットは軽いので当てることはできるようになりますが、シャトルも軽いのでラケットをある程度強く振り抜かないと飛びません。スカッシュラケットなどを使って練習することでもある程度筋力も鍛えられますし、ラケットって軽いんだという感覚から振り抜きもスムーズになることもあるでしょう。しかし上には上がいるものでタイミングをずらされたり、より強い球がくるとコントロールできません。そこで選択するのが…「もっと強く速くラケットを振れる筋肉を身につける」と考えるのが一般的なように思えます。
「強い球を打つ」「速く動いて打つ」を求めるのは戦術の中の一つの武器ですのでとてもいいことだと思います。しかし、そのためにはどこを鍛えればいいのか、腕の筋肉?足の筋肉?と考えられがちですが、私はそれをやってきましたが限界がありました。そこで出会ったプレーが2005年世界選手権男子ダブルスで優勝したインドネシアのチャンドラ・ウィジャヤ選手でした。安定した姿勢でコートに立ち、非常にコンパクトに振りぬくレシーブを見て「なんだこれは?!」と感動しました。そこから同じくインドネシアのタフィック・ヒダヤット選手、ヘンドラ・セティアワン選手の動き方の中に共通するものがあるのではないかと分析するようになりました。まるで舞を舞っているようなスムーズで華麗な動き。その当時の日本のバドミントンは速く、強くを筋力トレーニングで実現する方向性がありました。もちろん否定しませんが自分の経験からはそれでは限界が来ると感じていたのでいかに楽に速く動くかを考えるようになりました。華麗な動きを求めているとアイススケート、スキー、カンフー、能などの動きにとても魅力を感じるようになっていきました。そんな中で出会ったのが古武術。甲野善紀さんの活動でした。
ちょっとした形や意識を変えるだけで大きな力が発揮できる身体操法の中に「抜重」というものがあります。これは床へかかっている圧力(体重など)を減らすことですが、抜重をすると一瞬無重力状態になります(膝カックンのような感じ)。重力で地面に落ちていく力を利用して逆の動きである腕を上げるという動作を補助したり、接地後の地面からの反力をいろいろな方向へ、もしくは体のいろいろな部位へ伝えていくというものです。今まで特定の筋肉だけを使っていたところに、補助的に違う部分の筋肉(特に体幹)も動員できるようになります。これができるようになると腕の筋力に重力を含め体重を楽に簡単に利用できることになります。体重を利用するには床にその重さを伝えるだけというシンプルな動きで実現できるのですね。
抜重を行うには少し条件があるようです。最も大切なことは全身をつなげておくことだと甲野氏は話されていました。そこで必ず意識しなければならないのが「肩を上げない」ということでした。緊張したり不安感があると肩が上がりますので、そのあたりのメンタルコントロールも大切になってきますが、体からそのような心理状況を緩和することもできます。簡単そうで、意外とコート上でやるのは勇気がいるのですが、そのあたりとバドミントンへの応用も含めて次回はお話ししたいと思います。