林成之先生によるバドミントン指導者向けの講演会がありました。その内容をまとめてみました。
「頭が良くなるには」
学力が高いと頭が良い、低いと悪いと一般的には判断されます。それもおおよそは間違っていません。しかし、知識の量が多いことと頭が良いこととは少しずれていると考えられます。
長い間勉強すればするほど頭が良くなることはありません。4日前の夕食を覚えている人は少ないと思います。大切なことは、頭をただ使うのではなく「どう使うか」ということと、そういう「習慣を身につける」ということです。
頭の良い悪いは、3歳から7歳、10歳のときの習慣で決まるといわれています。しかし、その後はシナプス数 を増やしていくことで学習していきます。ということは、その後年齢を重ねていったとしても頭は良くなります。しかし、習慣の善し悪しがシナプス数を増やす ことに大きな影響を与えます。
脳細胞の数は3歳くらいまで右上がりに増えていきます。そして、その後脳細胞の「間引き」、つまり減らすことが行われることがわかっています。この間引きが行われないとシナプス数の増加が鈍くなってしまうそうです。
「間引き」とは実際にどういうことなのかというと「悪い習慣の排除」です。
◆感動しない
◆「無理無理、大変、できない」と言う
◆すぐしない
◆途中で違ったことを考える
◆「だいたい出来た!」
◆人の話を聞き流す
◆人を尊敬しない
◆学習したことの確認をしない
◆損得で手を抜く
◆素直に全力投球しない
このようなことが習慣になっているとシナプス数は増えにくいですし、技術も向上しにくいですし、土壇場でも力は発揮できません。
世界空手選手権大会で史上最年長優勝を成し遂げた塚本徳臣さんは伸びていく選手の特徴として「心が綺麗」と表現しています。米長名人も若き頃の羽生名人を「目が綺麗」と表現しています。
やはり、悪い習慣を排除していく努力を重ねている人には表に現れるのだと思います。
「体の使い方」
情報が目に入ると視覚中枢に伝達されるのですが、すぐにその部分の上の空間認知中枢で距離とか間合いとか物の流れなどが認知されます。この部分はとても 大切で空間認知能力の善し悪しでパフォーマンスが大きく左右されるそうです。どうすれば空間認知能力が高くなるかというと、両目を「水平」に保つことだそうです。バスケットボールのマイケルジョーダン選手は空中でもこの目線が常に水平に保たれているようです。バドミントンにおいても非常に参考になると思います。
次に、肩甲骨の動きです。肩甲骨は腕を使うときの「オモリ」なんですが、このオモリがずれていると腕をちゃんと使えないそうです。したがって肩を使うのではなく、肩甲骨を振るように腕を使うことが出来るとスマッシュなどでも先に伸びていくと言われています。イチロー選手は肩甲骨を振るトレーニングマシンを使って鍛えています。やはり大切な部分です。
3番目は大腰筋と腸骨筋です。ここが鍛えられ ている人はお尻の位置が上がっているので足が長く見えます。強い選手はこの筋肉のおかげで体軸が強いのです。水泳の北島選手やマイケルフェルプス選手はと ても鍛えられているそうです。鍛えるヒントとなるのは赤ちゃんが行う「ハイハイ」です。このハイハイが速い人は運動能力が優れています。生徒には乾拭きで 雑巾がけをさせていますが、これも良いトレーニングになっていると思います。
4番目は「可動体軸」。これは上半身と下半身 の分離点、ちょうどみぞおちの奥の部分です。この部分を意識して運動をすると上半身も下半身もよく動きます。最もよいバランスはやや前傾している形だそう ですが、卓球などではラリーで押し込まれて日本選手はこの体軸が徐々に立ってしまい負けてしまうということでした。
日本選手のジャンピングスマッシュを見てみると体軸が立っているとのことでした。逆に中国選手は前傾しているということでした。やはり強さには秘密があるのですね。
以上をまとめると
1.水平目線の精密な空間認知能力
2.腕の動きを高める広い肩甲骨の可動能力
3.腰の切れを生む腸腰筋と安定体軸姿勢を作っている
4.上半身と下半身の運動能力を発揮する可動体軸とこの支点を意識するバランス体軸
です。視点、意識する運動や場所、トレーニングする部分など大変参考になる内容でした。
「勝負に強くなる」
勝負している時に「迷い」があると力が発揮できないことは皆さんわかっておられると思います。例えば2階と台所を行き来している時に、台所で冷蔵庫を開 けた時に何をしにきたのか忘れてしまったという場合などがそうですが、途中で違ったことを考えてしまうとそういうことが起こります。
つまり、試合のラリー中などにああしろ、こうしろという声掛けは余計な思考が働き「迷い」を生む最悪のコーチングになります。ラリー中は思い切って直感に任せるくらいでないと力は発揮されにくいということです。
また、点数差がついて勝っているときに油断することで逆転を許すことが多々起こります。これは「もうすぐ終わり」と考えた瞬間に、脳の血流量が下がり空間認知中枢、前頭葉が活発に働かなくなるためです。ですので、21点を終わりと考えるのではなく、試合が終わりお世話になった人や対戦相手に「ありがとうございました」と感謝の気持ちを表すときが試合の終わりとイメージすることでこの現象を防ぐとこが出来るそうです。
力を発揮する人、強い人の特徴は、「自分で決めてやる」「チームに貢献する」「勝ち方に拘る」「最後の最後まで手を抜かない」など。
弱い人の特徴は「否定後をすぐ使う」「言われないとしない」「勝ち負けを気にしている」「様子を見ながらコツコツやる」など。
当てはまるところはないでしょうか。是非とも一度自分の心を分析されるとよろしいでしょう。
- 脳科学からの教訓 -
◆人間の脳では考えによって一瞬のうちに脳血流まで変化する
◆試合の途中で、勝った、もうすぐ終わりと言った結語を考えてはならない
◆勝負は最後まで勝ち方にこだわる
「脳の仕組みを活用する」
腕を振る、スマッシュを打つというのは本能と心が一体となって機能しています。これがバラバラになると上手く運動できません。
この、本能と心を一体化させるためには、自己保存の本能「興味を持つ」「好きになる」ということが最も大切です。「バドミントンが好きではない」なら100%上達しません。その自己保存の本能を支えるのが自尊心(プライド)です。この自尊心 は「何をやってもいい加減」「最後までやりきれない」「わかっているけど出来ない」などでは育ちません。また、「損得で動く」「言われないとやらない」の も同じことです。
次に必要になってくるのが「仲間のために頑張る」ということです。これが育たないとモチベーションが上がりません。自分のためだけだと考えていると悪い結果からすぐにやる気を失ってしまいます。
しかし、人間には「仲間になる」という本能的な部分があります。つまり、試合では相手を打ち負かすわけでこの本能に反する行動に違和感を覚えてしまいます。そうなると本来の力が発揮されなくなってしまいます。そこで発想の転換ですが、「相手は自分を高めてくれる必要な仲間」として考えるとこの違和感が改解消されます。
また、仲間になるということは相手と協調することにもつながります。つまり、相手が構えるとそれに合わせて自分も構えてしまうというような相手のペー ス、テンポに合わせてしまうことはサービス場面では不利になります。自分のリズムで構えに入るということは非常に大切です。
<まとめ>
1.ライバルは敵だと思ってはいけない
2.コーチ、チームを好きになる
3.勝ち負けより勝ち方にこだわる
4.損得抜きに素直に全力投球する習慣を育む