「人は何のために生きるのか」

この問いについて真剣に考えた事はあるでしょうか。お金を稼いで不自由のない暮らしをしてさらに地位や名誉があれば言うことなし!ということもあるでしょう。そのような金銭欲や自己顕示欲は全ての人間にあるものだともいますし私も例外ではありません。お金は大切です。しかし、「自分を幸せにするものは何だろう?」と考えた場合、自分に足りないものを他人や周りから奪うという行為に走ってしまうとそこから得た幸せのようなものはいずれは消え去ってしまいます。奪ったものは奪われる運命にあるからです。
では、スポーツに於ける幸せとはなんでしょうか。勝敗がある以上それは「勝つこと」になるのかもしれません。しかし、勝っても勝っても次の目標はついてきます。もちろんこれは人生に於いても同じです。「勝つこと」が目的になると勝ち続けなければならないし、勝てなくなると自己否定からその後の人生も狂いかねません。故米長邦雄名人も著作で「勝って不幸な人生もある。肝心なのは負けた後」と言われています。「勝った事がある経験」は大切です。一度も勝っていないと面白くないですよね。しかし、最も大切なのは結果が出るまでの過程であり、課題に対して自ら責任を負い、失敗を繰り返しながらなんとか乗り切ろうとしている経験なのです。

課題は何?

コーチなどから「○○だ」と適切なアドバイスを受ける事ができればそれはそれでよろしいですが、真剣になんとか変えようと心に強く気持ちを抱きプレーを繰り返していると自らの課題に早かれ遅かれ気づく事ができてきます。そういうヒントは実は身の回りにたくさん転がっているからです。そのタイミングでアドバイスを受けたときはさらに深く気づきが訪れるでしょう。課題が見えないのはその問題に真正面から向き合えていないからかもしれません。
プレーについて思考するということは実は大変語彙力が必要で時間もかかります。頭の中でその感覚を言葉で表現できず(もちろん何となくの感覚も大切ですが)、その時間を面倒くさがるとそこから深く掘り下げられずに終わります。運動だけしていればOKと言っていると早い段階で限界が来てしまいます。本能に任せてばかりでは高くなる障壁を前に尻尾を巻いて逃げてしまうでしょう。実際のプレーには一見役に立たないと思われがちな「読書」はスポーツマンに取っては必須だと思います。

本能

人の脳は3つの層から成り立っています。

人間の脳「思考」 − 悩んだり試行錯誤を繰り返しながら稽古を積み重ねる
哺乳類の脳「感情」 − 感情的で強い恐怖心がある。未知の刺激を嫌うため習慣化を好む
爬虫類の脳「行動」 − 運動を自動操縦

人は常に理性的に思考して行動を選択していると思われがちですが、実はかなりの部分で本能によって選択させられています。「怒り」についてはまさに典型的です。嫌な出来事があると普通「怒り」ます。私も平静を装いはしますが感情的にイライラしている事は多々あります...。その場は収まったとしても、しばらく時間が経つとまた思い出して「怒って」いる事はありませんか?怒りたくないのに過去の記憶がフッと湧いてきてまたイライラしているという事を繰り返しています。さらにその感情に飲み込まれる事で...ろくな対応ができなくなる事もあります。頭の中の記憶はほぼぐちゃぐちゃになっているもので、常に何かのイメージが沸々と湧いては消え湧いては消えを繰り返しています。刺激を少なくした瞑想中であるとこれは大変顕著で五分という時間にどれだけ考えるのかというくらいに色々なイメージが頭をよぎります。
さて、それらを司る哺乳類の脳は感情的で強い恐怖心があります。これは安全な巣の中から出たくないという未知の刺激を嫌うため、一度成功するとその習慣化を選択します。それが成長の敵となります。人の世は常に保守と革新で揺れ動いていますが本能の中に組み込まれているので仕方がありません。しかし、スポーツにおいて成長しにくいというのはまさに上のレベルに上がる事ができません。成長し続けるためにその保守的な習慣化から脱却する方法として、気づいたらすぐする『即行』が大切になります。ここからスポーツに於ける大切な要素「直感力」という知性が育まれ、「ゾーン」や「フロー」と呼ばれる集中した状態に入りやすくなります。

ゾーン(白石豊氏著「本番に強くなる:筑摩書店」より)

エラーする気がしない、完全に落ち着いている、スイッチが入ったなどと表現される「ゾーン」という状態に入る条件は、技能と挑戦のバランス(CSバランス)がとれていなければなりません。

図のように挑戦と技能が高い方へ傾くとゾーンに入れますが、結果が全てだと考えていると試合中に負けていると不安になり、勝っていると退屈になり、いずれの場合も良いプレーは引き出せません。損得勘定が頭にこびりついていると常に集中する事はできなくなってしまうのです。では、姿勢としてどう考えれば良いかをまとめました。

①自分の身に起こる事は全てプラスととらえる(対戦相手は自分を高めてくれるツール)
②頑張れば乗り越えられそうな目標を作る(小さな達成感を積み重ねる事が大切です)
③Give & Give の精神で生きる(他人のためにしてあげることことが実は幸せです)
④感謝や感動の心を持つ(ヒントが素直に頭に入ってくるようになります)
⑤結果を考えず目の前の事に真剣に取り組む(今に集中する事はゾーンへの入り口)

プレッシャー

挑戦が高くなればなるほどプレッシャーも大きくなっていきます。これは消せるものではないので乗り越えなければなりません。プレッシャーがかかると感情が動きます。

レベル1 あきらめ − 目線が下がり、背中が丸まる。動作が鈍い。
レベル2 怒り(不安) − 心拍、血圧が上がり筋肉硬化から疲れる。
レベル3 びびり − 過緊張状態。行動はパワフルだがしぐさが速くなる。
レベル4 挑戦 − プレッシャーを楽しめる。体はリラックスし心は集中している。

「あきらめ」という感情が出るともはや試合どころではありません。コートから速やかに逃げたくなっている状態です。この感情は普段の生活の中で多く繰り返されているため習慣化されている場合もあります。例えば部活動は頑張るが勉強はもう結構(成績を上げる努力経験もなしに??)、や授業で疲れているから寝てもいいやという甘えです(桑田真澄氏の著作「心の野球」でもその辺りは厳しく書かれています)。私自身も通学時間を1時間半かけて登校していたので授業中に眠くなる事は多々ありました。しかし、そういう授業こそノートの字をいつも以上に丁寧に書いたりしながらモチベーションを保つ努力をしていました。「バドミントンだけ」と言われるのは何か負けた気がして嫌だったからです。
この方法は効かないなという手段をあきらめる(明らめる)事は良いのですが、どうなりたいのかという「目的」を諦めてはいけません。そのゲームで1点でも多く多くとるためには方法がまだあるはずだからです。
「怒り」の感情は低いレベルでは他人や周りの環境のせいにする形で出てきますが、レベルが上がれば自分自身を責める自己否定で出てきます。「思考」によるもう一人の自分が「運動」を司るもう一人の自分に強制的に指示を与えるため(「インナーゲーム」より)さらに結果がうまくいかずイライラし、大声を出したりすることで自分の怒りを鎮めようと、不安から逃れようとします。呼吸は早く浅くなっている状態なので、ゆっくりと息を3〜5回吐き出す事で解消されやすくなります。呼吸と心は密接につながっています
「びびり」という感情は怖がっているというわけではなく「過緊張状態」と指します。「体がチョー軽い!」なども一種の「びびり」である過緊張状態であるため注意が必要です。試合開始早々、ジャンプを多用したりスマッシュやカットが浮いたりするのも、過緊張から意識が頭に上がり、それに伴って重心の位置が上がってしまうために起こります。そういうときはジャンプして着地時に足裏を意識したり、肩を上げてストンと落とす動作から意識を下げます。意識が下がれば重心も下がります。宙に浮いたような状態というのは実は重心が頭の方向へ偏っているために起こるのですね。
「挑戦」という感情にはこの「びびり」を何度も経験して乗り越える事で入れます。そのために普段の生活、練習の中に「甘え」や「諦め」がないか、「怒って」しまってもどう対処するか、さらには「挑戦」できる課題を作り乗り越える経験を多く積めているかが大切です。

「怒り」をコントロールする

競技中、さまざまな要因で「怒る」ことが多々あるかもしれません。「相手が挑発してきた」「なんか生意気だ」「ペアがミスばかりする」「相手がやる気が ない」「自分に腹が立つ」など。しかし、「怒る」感情は血液中のストレスホルモンを分泌させ、血圧上昇、血流減少、筋肉硬化などの反応を引き起こしてしま い、本来の自分の実力は出なくなってしまいます。
では、どうすればコントロールできるのか。
もっとも大切なのは、すべての出来事は必要、必然、最善であると考えることです。相手の野次なども「自分を奮起させてくれている」、ペアの動きが悪いときも「ペアにいい球を打たせてあげよう」、自分のミスが続くとき「ここを練習すればいいんだな」というようにです。

「集中力」を下げるもの

試合に集中力できないと自分の実力は出ません。何が集中力を下げるのでしょうか。

  1. 時間的要因
    ・ミスを後悔する(過去を考える)
    ・結果に不安を感じる(未来を考える)
  2. 相手や環境に意識がいく
    ・周りに認められたい、相手に腹が立つ、相手のほうが強いと思う
    ・試合などで隣のコートが気になる
    ・シャトルが飛びすぎたり、飛ばなかったりする
    ・体育館が暑い、電灯がまぶしい、壁の色でシャトルが見にくい
  3. 内的要因
    ・怪我が気になる
    ・悩み事などがある

いかがでしょうか。当てはまる個所はありませんか?
集中することができている状態というのは、今その瞬間に何をすればいいのか、ということだけを考えれている時をいいます。過去を変えることはもちろんできませんし、未来を考えても何の解決にもなりません。「今、どうするのか」「今、何をすべきか」「今、できることをする」のが大切です。

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